2015年5月10日 法政大学第二中・高等学校にて神奈川県歴教協の総会および研究集会を行いました。
10:00:開会
司会による開会あいさつに続いて、本部常任の桜井千恵美さんから次のような挨拶をいただきました。
≪日本は戦後70年間平和を続け、それが国際的にブランドになっています。しかし安倍政権のもとで集団的自衛権が容認され、福祉は切り捨てられ、教育への介入もひどくなっているのが現状です。
しかし一方では辺野古への基地移設に反対するオール沖縄の戦いや、5月3日の憲法集会の盛り上がりに希望を感じます。今年8月の教科書採択で、横浜、藤沢で育鵬社を採択させないことが何と言っても大事です。
神奈川歴教協が2017年の全国大会開催を引き受けてくれたことに感謝します。
2年間の準備期間はとても短いですが、大学生の参加など関東ブロック千葉大会の方式から学び、共に頑張りましょう。≫
活動報告、2014年度情勢報告
事務局長の高木誠さんから全般的な活動報告と情勢報告が行われました。
続いて中学校部会と川崎支部については、各責任者から活動内容の報告や、今後の予定と参加呼びかけのアピールが行なわれました。
2015年4月にスタートした神奈川歴教協HPについては、担当者からHP作製の報告と、新たな原稿掲載への協力呼びかけが行なわれました。
会計報告
会計担当の大湖賢一さんから2014年度の会計報告が行われ、会計監査担当者による監査報告が行われて、承認されました。
2015年度活動方針案
事務局長の高木誠さんから2015年度活動方針について次のような説明が行われました。
≪近年団塊の世代の退職に伴って20代の若い教員が増えています。私たちは活動の間口を広げ、若い世代との接点をつくり、活動に参加してもらえる取り組みを工夫する必要があります。
そのために、①会員に連絡票を送り神奈歴会員の現状を把握しメールアドレスをつかむ、②2017年全国大会の現地実行委員会の立ち上げ準備、③メーリングリストの再構築、④全国大会や関東ブロックにもっとレポートを出す、⑤道徳の教科書の読書会に取り組む、⑥地域や他団体の活動に参加し人脈や活動範囲を広げる、などに重点的に取り組みたいと思います。≫
2015年度予算案
会計の大湖賢一さんから2015年度会計案について説明がおこなわれました。
質疑
以上の活動方針、会計などの議案について参加者から次のような意見が出されました。
このような意見に対し、高木事務局長は次のように答えました。
≪教科書問題に取り組んでいる市民団体に神奈川歴教協から財政支援をするには、団体について判断しなければならず難しいです。今後前向きに検討し、予算の組換えでは無く予備費で対応することも考えられます。
2017年神奈川大会まで時間が無いことをひしひしと感じます。現地実行委員会準備会の日程を発表するので、参加を考えている人は是非来て下さい。≫
以上の質疑を踏まえて、参加者一同拍手で2015年度活動方針案と予算案を承認しました。
2015年度人事案提案
神奈川歴教協委員長吉池俊子さんより人事案について提案され、参加者の拍手で承認しました。
会長挨拶
最後に閉会挨拶を兼ねて、吉池委員長から次のような挨拶が行なわれました。
≪皆様に信任されたので、これから1年間どうぞよろしくお願いいたします。現場の状況は厳しいけれど、これから全国大会まで神奈歴が行なうべきことを考えて行きたいと思います。
学び舎の教科書については、是非HPに載せたいです。ベテラン会員の歴史や実践を、県ニュースの中で紹介してゆきます。
まず、ここに参加された方々の力を結集すれば、大会の成功の道筋ができます。沖縄大会と京都大会のはざまの神奈川大会ですが、心に残る良い大会にしたいと思います。≫
12:10終了
講師は、林博史さん(関東学院大学教授)
日本軍「慰安婦」は,特異と言われるが、他国と共通する側面もある。それをどのように認識するかが問題となる。
近代になると徴兵制が導入され軍隊が成立すると、男だけの社会ができた。一つの村がまとめて移動しているという形になる。そこで男たちの性病防止の問題が持ち上がった。性病は軍隊にとって大きな兵力の損失だ。そこから売春をする女性が存在し始めた。19世紀には公娼制が導入された。ナポレオンの時代が最初だと言われている。兵士だけでなく一般の男性向けでもあり、ヨーロッパ各地に広まり、日本も導入した。
19世紀後半から、人身売買が横行してきた。しかし、黒人奴隷制が廃止の方向に向かい、女性の場合、“ホワイトスレイブ”という言い方をされるようになった。女性に対する人権侵害だとして公娼制廃止運動が始まった。
公娼制がなくなったからといって、売春がなくなるというわけではない。問題は、国がそれを公認するのかどうかということだ。世界的に公娼制が廃止になって行った。日本は国際連盟の一等国だから従わざるを得ない。
2001年以来14年間、アメリカの公文書館に行って、性の売買について調べている。20世紀になり、軍の規模が拡大し、海外に駐留しはじめた。公娼制は性病予防には失敗といえると、陸軍軍医総監部は結論づけた。ある意味禁欲的に「買春させないこと」ということで、スポーツ施設充実など健全な娯楽への誘導とコンドーム配布という対策になった。
軍のトップの考えたのは、ピュアリタニズム。「男らしさ」とは、マッチョ+理性によって自分の感情や欲望をコントロールすることであり、セックスは夫婦間のみとするものであった。もう一つは革新主義による。
1872年に芸娼妓解放令をだし、明治民法下では、“人身売買は禁止”だった。大審院判決では、借金を返すために売春をしなければならないという契約は無効だが、借金は返しなさいというものだった。しかし、実質的には、借金返済のために売春をせざるを得なかった。
明治民法には、人身売買は含まれていなかった。刑罰はないから野放し状態だった。2005年まで人身売買は犯罪ではなかった。(2005年に刑法には入れられた。)だから日本において人身売買はかわいそうだが仕方がないのだというふうに思われてきたのはそこが関係しているのではないか。
未成年者はたとえ本人が同意してもいけなかった。しかし、21歳以上の成年女子は本人同意ならよかった。暴力やだましではいけなかった。日本は、植民地は適用除外ということにした。朝鮮半島などから一度日本に連れてきてからならこの条約が適用された。
1930年、国際連盟の調査団は、公娼制廃止を勧告した。もう一つの流れとして、キリスト教団体である廓清会と婦人矯風会が、事実上の奴隷制度だとして、県議会に請願をした。
勧告を受けて公娼制を廃止したのは、29県で、廃止または決議をあげた。民政党永井柳太郎や若槻礼次郎が「公娼制は奴隷制度だ」「非人道である」と主張した。しかし、1937年日中全面戦争で覆されていった。公娼制度は当たり前のことではなかった。それは一種の奴隷制だったから。
戦前の国会議員や県会議員は、今よりまだましだった。
「慰安所」の定義として、「軍が設置を計画し、女性を集め(軍が直接か、第三者に委託するかはあるが)、施設を確保し(接収あるいは建設する)、もっぱら軍人専用として軍人たちの性の相手をさせた施設」といえるが、あいまいではある。軍が売春を管理するということもある。
戦場にあって食料があるのは軍隊で、人が周りに集まってくる。男性なら労務を提供して食料を得る。女性だと性の相手をして必要な物を手に入れる。軍紀が乱れる、兵士は性病にかかってしまうということで軍隊が何らかの管理を行う。これも広い意味では慰安所といえる。もう少しせまい意味で考えてみたい。
近代の世界史の歴史の中で、ヨーロッパ諸国が植民地獲得戦争を行う。
イギリス軍……登録された女性が軍隊の一画で始める。しかしこれはホワイトスレイブの指摘を受けて、1888年に廃止された。公にはできず。
フランス軍……基本の売春宿を軍が管理。アルジェリアの奥地では軍専用野戦慰安所を作った。長期にわたって作ったのはフランス軍。ベトナム戦争においては、北アフリカの兵士の相手をさせるために北アフリカの女性を連れてきた。フランス本土の兵士に対しては分からない。植民地から兵士をつれてきた。フランス軍兵士に北アフリカの女性をあてがうのは嫌った。明らかに女性差別。
第二次世界大戦時においては、フランス軍はすぐ占領されてしまったので、日本とドイツ軍だけ。ビルマ国民軍に対しての慰安所を設置し、16人の女性をあてた。ビルマはマンダレーにビルマ人専用に日本軍が作った。
日本は既存の売春宿や売春婦だけでは足りないから、性病にかかっていない女性をかなり無理をして集めた。植民地の女性を大量に連れて行くのは日本の特徴。朝鮮や台湾の女性は日本人に似ているので、そこに日本名をあてがい相手をさせた。そこが日本が批判される一つの理由だ。
第二次世界大戦後、朝鮮戦争のときに韓国軍が慰安所を作った。韓国政府が米軍のために慰安所を設置したこともあった。特殊慰安隊を作った。4つの小隊に89の慰安所で20万人を相手にした。日本とくらべると規模としては小さいが、日本と同じ。作ったのは陸軍で、日本軍がやっていたやり方を韓国軍でやった。朴元大統領も。ベトナム戦争のとき韓国軍が慰安所を作った。(ホーチミン市:サイゴン)
台湾では国民党軍が慰安所を作った。金門島で1952年から軍人用慰安所を設置、台湾本島にもつくった。本島では70年代に廃止、金門島では90年代初頭に廃止された。私娼を警察が捕まえて。国民党軍は一種の侵略軍だった。
他の国でもやってたんだなと思われるかもしれないが…。
第二次世界大戦の日本軍の特徴は、以下の通り。
強姦防止として始まった日本軍は、計画・業者依頼・管理などすべて軍が関与している。他の軍隊は性病予防対策。しかし、強姦は減っていなかった。
アメリカは買春を認めない、モラルとして国家が兵士を行かせるのは反対していた。RAAも、1946年にはオフリミッツにされた。牧師が会議をして本国に申し入れた。ニューズウィークが写真入りで暴いた。空軍も猛反対した。従軍牧師や真面目な兵士が郷里の牧師に手紙を書いて訴えた。左派(リベラル派)も右派も同様で性的モラルは厳しかった。国家が行うなどもってのほか。強制連行云々ではなく、そういう所に兵士を行かせること自体が問題視された。闇ではやっていたかもしれないが、ばれると処分された。イギリスにおいても公的には禁止であった。
日本は、1937年野戦酒保規定を改定、「必要な慰安施設」を付加した。軍の公式の施設として慰安所を作ることを認めた。陸軍経理学校の教材にも経理係の任務として「慰安所の設置」というのがあった。鹿内信隆フジサンケイグループの最高指導者も陸軍経理学校で教わったと発言。中曽根康弘元首相も、慰安所をつくったと著書に記載している。
慰安所を軍の公式の施設としてつくったのは、日本軍とドイツ軍だけ。
① その軍隊の本国の自由・民主主義・人権のレベルではかる。人権の表れとして、女性参政権が実施された年などによってはかることができる。
日本は自由主義・民主主義をすべて否定し、国際法も否定-英米によってつくられたものだからということで。女性差別の構造は、いまだに続いている男系天皇制や家制度に象徴される。
戦争中の日本の社会は今だったら、北朝鮮を考えられる。10代の女性が拒否できるのか、を考えねばならない。「JK」(女子高校生)などの今の感覚で考えてはいけない。まず当時の社会状況をきちんと考えていかねばいけない。
② 帝国と植民地の民主主義の関係
本国では民主主義でも植民地には保障されない。植民地の女性を連れていくという女性差別。人種差別・民族差別は、アメリカ軍やイギリス軍でも在る。もちろん、売春に関わっている女性ならよいというのではなく、国が管理することや連れてくることを国家がやることが問題なのだ。
③ 戦争の性格
第二次世界大戦の性格として、最近の研究では、ファシズム対自由主義とはあまり言われない。連合軍の側の帝国主義の問題もはっきりしているので。侵略軍がそういう制度を作っている。侵略されている国にとって、自国の女性は守るべき対象であり、侵略している国では暴力性をもち、組織的な広がりを見せる。この問題を抜きにして考える事は出来ない。
④ 売春婦をめぐる問題。
「一般女性を守るために売春は必要だ」論は、厄介な問題だ。
⑤ 現地の状況による違い
日本軍は、島であっても積極的に連れて行く。アメリカ軍は、ないならない対応をしていく。
研究レベルでは、近代そのものの見直しが必要とされてきている。かつてはマルクス主義が明るい未来だったが、今明るい未来を描くことができない。帝国主義の問題として考えねばならない。
韓国の挺身隊協議会は、日本軍にも韓国軍にも反省をを促している。
アメリカの研究者の日本歴史家へのエール文には励まされた。日韓の対立としてだけでなく、別の形でとらえねばならない。
① ベトナムでの韓国への謝罪を求める動きや運動はあるか?
――被害者への基金を渡しているが、ベトナムの中では支援グループはない。
② 15年戦争中日本国内では慰安所はなかったのか?
――沖縄、小笠原にもあった。従来の慰安所を軍専用にした。
③ 戊辰戦争のときや日清・日露戦争のとき、略奪や強姦などがあったのか?
――戊辰戦争の時については分からないが、日露戦争のときは朝鮮半島で軍関与のものがあったという資料がある。(既存の売春宿の転用)日清戦争は期間が短いので不明。どの範囲までを慰安所ととらえるかにもよる。
④ 右翼や一部保守派が「慰安婦」問題を認めたがらないのはなぜか?
――性の問題は触れられたくない問題だ。基本的に自国の軍隊の起こした犯罪は認めたくない。
⑤ 第二次世界大戦中のドイツの慰安所設置のにはどんなものがあるか?
――強制収容所における慰安所=囚人向けで、しっかり働いた御褒美として。慰安婦も囚人というものと、ドイツ国防軍が設置したものとがある。それはフランス軍のものをドイツ軍が転用したもの。
⑥ 米軍の場合は、どうだったのか?
――米軍はローテーションで休暇を取らせた。太平洋戦争のときは十分できなかったが、朝鮮戦争・ベトナム戦争のときは既存の売春宿を利用させた。それは、精神的にもたせるため、戦争神経症対策のためだった。
⑦ 産経グループなどインターネット書籍などで慰安婦否定の言動をしている狙いは何か?
――右派の反対理由は、国家が重大な犯罪を犯したことは認められないというものだ。国家は常に正しいんだという認識を植えつけておきたい、国家がやることは無条件に正しいと思わせたいのだ。
⑧ 林さんのもとに右翼からのいやがらせはあるか?
――右翼の嫌がらせは、個人には来ないで大学に来る。
⑨ 女性のために国際法廷において証言した元「慰安婦」の方があとで撤回し、「あの裁判はやらせだった。」とインターネットで流されているがどういうことなのか?
――つかんでいない。この裁判については記録集が出されている。
⑩ ソ連軍についてはどうか?
――レイプ研究については、なされている。(ドイツはこの研究が進んでいる。)満州では膨大な証言がある。ソ連軍は建前は禁止だったが、実態は分からない。しかし、「軍」としては多分なかっただろう。
⑪ フランス軍やイギリス軍についてはどうか?
――フランス軍は、インドシナ戦争のとき北アフリカの兵士のために北アフリカ女性を連れてきた。ただし、女性はお金が貯まったら本国に帰った。イギリス軍は、地元の女性を使ったので、軍の施設に自由に入れるし、やめることも可能だった。連れていったりはしなかっただろう。
⑫ パンフレット「『歴史認識問題』を克服し、日本と朝鮮半島との平和な未来を」に出ている、日本の裁判所による事実認定とは?
――かもがわブックレット『司法が認定した日本軍慰安婦』に出ている。
⑬ 大学への攻撃は?
――林さんは専任教員(教授)だからよいが、非常勤だと厳しい。公開しているシラバスにないことを授業でやると注意を受ける。
⑭ 吉田証言を扱った『朝日新聞』の件については?
――上杉聡さんの論文や元赤旗記者による単行本が出ている。研究者としては、吉田氏が部下から聞いたことをも混ぜて書いているので、個々は正しいが、場所も時間も組み替えているので歴史史料としては使えないと、90年代初めから分かっていた。「朝日は虚偽」としたが、ふつうは「判断しかねない」程度のことだ。安倍政権に許してほしいという「朝日」のメッセージだ。